ヘンゼル姉妹 ― アビゲイル・ヘンゼル、そしてブリタニー・ヘンゼル ― はパティとマイクの長女、次女として1990年、米ミネソタに誕生した。二人は二顔体と呼ばれる結合性双生児である。独立した心臓と胃を持っているが、脊柱が臀部で癒合し、多くの臓器が一人分の大きさほどの身体のなかで共有されているため、しばしば"一人の人間に頭が二つ"という誤解を受けがちである。しかし実際には、"二人の人間に身体がひとつ"が正しい。また誕生時、彼女らは三本の腕を持っていたが、それは全く動かすことが出来なかったため、幼い頃に切断された。
姉妹はそれぞれ別々の趣味をもち、食べ物から衣服までそれぞれ異なる嗜好を持っていた。睡眠も別々に取り、学校では成績は別個に評価され、与えられる宿題も別々であった(しかし教科書は共有していた)。そして何よりも、二人はとても快活である。走ることはもちろん、水泳から乗馬、スケート、野球からバレーさえも優雅にこなす。彼女たちが動かすことが出来るのは、互いに自分の側の腕と足だけであるにも関わらずである。
またそれぞれ分離した脊柱(それは末端で癒合している)を持っているため、二人は独立した感覚を持っている。しかし血流は共有しているため、例えばどちらか一方が風邪をひいたとき、もう一方が薬を飲んでも効果が現れるという。そしてまた二人が食べたものは、二人の身体に吸収される。
1996年4月、アビゲイルとブリタニーは、あのライフマガジンの表紙を飾った。二人にはダコタとモルガンという幼い兄弟もいる。また両親は二人がそれぞれ独立した人格として生きていけるよう、彼女らをサポートし続けている。
二人が生まれたときには医師から分離することも薦められたが、両親は悩んだ末にそれを拒否した。それは二人のうちどちらかが死ぬという避けがたい可能性を孕んでいたからである。またもし、両方が生存した場合でも、両者は片足と片手しか持たないため、何らかの補助器具を身につけて生きていくことは自明だったからだ。しかし、両親の判断はおそらく正しかった。二人は今、元気な身体で走ったり遊んだりすることに夢中だからだ。
2002年、12歳のヘンゼル姉妹は二人の奇形から来る側湾矯正手術を受けた。二人の手術は成功、更に3cm程身長を伸ばした彼女らは、バレーボールが得意になったという。
また両親は二人に服を買ってくると、それを彼女らの体形に合わせて加工しなければならない。そこで特に注意するのは二人に別々のネックラインを用意することである。それは何よりも、二人が決して"双頭の少女"なのではなく、"二人の独立した人間"であることを意味するからだ。
「分離なんてしたくないわ」ブリタニーが言うと、「だって私たち、双頭の少女じゃないんだしね」 アビゲイルが、そう続ける。