サーペンティナ

Serpentina

「彼女は注目すべき人だった。彼女は身体の全てを折り曲げることが出来た。ビル・グレゴリーが彼女の面倒をみていた。彼女は銀行をまるで信用しておらず資産の全てをダイアモンドに換えていた。彼女はとても感じがよく、いつも笑っていた。」

-- ドリー・レーガン

サーペンティナ、またの名を"ヘビ女"と呼ばれた彼女のサイドショー・パンフレットには次のように書かれている。

「これまで公にされた、あらゆる自然の珍奇の中で、この人物に勝るものはおそらくいないだろう。

図1:サーペンティナの通常姿勢(1段目左)

世界八番目の不思議。彼女の前には医師でさえもたじろぎ、科学者達は頭を抱えた。この印象的な、三十七歳の女性はまるで常軌を逸した姿である。彼女はカリフォルニアのオークランドで生まれた。彼女には兄弟もいたが、両親含めて、このような外観なのは彼女だけであった。彼女のこの驚くべき身体の秘密は、実は彼女は肩から下にまるで骨がないということである。例えば彼女には脊柱がなく、背骨もない。しかしそれらを除けば -- 彼女はあらゆる点において同年代の女性とまるで代わらないのだ。

図2:サーペンティナの寝姿 (1段目右)

はじめてサーペンティナの姿を見るとき、誰もが思わず同情の念を抱く。しかし、実のところそんな同情も憐れみも彼女には無用である。何故なら、生まれたときから、彼女は一度たりとも痛みを感じたことがないのだ。そんなわけあって、彼女は生まれてこの方、一度も医師にかかったことがないのだ。いやもちろん、彼女はこれまで幾人もの医師が彼女を診ている。しかしそれは彼女がそれを必要とするからではなく、単に彼等医師が彼女を研究したいがためなのである。

図3:サーペンティナの唯一の運動(2段目左)

サーペンティナの悲劇とは、彼女は一人で動けないということである。つまり彼女は何処にいようと、一度場所を変えたら誰かが運んでくれるまで、彼女はそこを動くことが出来ない為、彼女は常に人の目の届く範囲に居なければならない。つまり彼女は、自分だけの人生という言葉の本当の意味を知らないのだ。あなたは想像できるだろうか?三十七年間に渡って足を伸ばすこともできなければ、歩くことなどまるで不可能な生活を。

今日では、サーペンティナはこの上に上げた三つの姿勢を取ることに慣れきっている。最初の姿は彼女のくつろいだ姿勢だ。この姿勢はちょうど、貴方が椅子に腰掛けた時の状態だとも言えるだろう。彼女は毎日のほとんどをその姿で過ごしている。そして図2の姿は彼女が眠る姿だ。三十七年間毎日、彼女はあの姿勢で眠っている。しかしただ座っているだけでは内臓が捻れてしまうため、彼女は時に身体を動かさねばならない。そして図3の姿を取るということだ。

サーペンティナの症状の原因は、ある高名な医師の説によれば、"骨化不全"とでも呼べる現象というである。それは彼女がまだ母親の胎内にいるとき、母親が十分に彼女を発育させることが出来なかった為に起きたという。またその原因はおそらく母親の過労働に求められる(訳注:これはもちろん、当時の推測である)。」

サーペンティナはかの時代、フリークスとして知られた人々の中でもとりわけ際だった存在であった。パンフレットによれば、彼女はカリフォルニアのオークランドに生まれたと書かれているが、ダニエル・マニックスは彼女が生まれたのはカナダはオンタリオのダグラスであると書いている。またパンフレットには、肩から下にまるで骨がない、と書かれているが、いくつかの写真を見る限り、本当のところいかなる症状であったのか、疑問の余地は残る(特に顔の形も特徴的で、骨形成不全のように見える)。彼女は当時、"海から来た小さな人魚"などとして喧伝されたという。